研究指導方針
<もうちょっと細かい説明>
学生の研究テーマは,こちらからは押し付けることなく,できるだけ多くの選択肢を示し,それがどのように面白いのか,どのような結果が期待されるのか,どのような指導が可能なのかを理解してもらった上で,自身で選んでもらっています(ぼくの興味から勧める研究テーマには多少の偏りもありますが…).もちろん,すでに確固たる研究テーマを持った院生が,この研究室でそのテーマを継続したい場合にはそれを尊重しますし,そこまでしっかりしてなくても,**ムシが好き!というような希望も出来るだけ尊重しています.
ぼく自身,昆虫の形態進化や高次系統に非常に興味を持っており,そのようなテーマであれば,分類群に関わらず指導できます(というか,そんな研究に興味を持つ人にどんどんきてほしいです).また分子を用いた系統学や系統地理学であれば,昆虫以外でも指導可能だと思います.北大の昆虫体系は分類学の伝統があり,ぼくはこの伝統をできるだけ残し育てて行きたいと考えています.ですから,様々な分類群の記載分類に取り組んでくれる方も大歓迎です.その場合,分類学に関わる一般的な指導はできますが,ぼく自身があまり得意でない分類群の場合には,それぞれの分類群のより深い理解を得るために,学外の専門家に指導協力をお願いすることもあります(下記のシリアゲムシの研究などはその一例です).ぼくの専門であるチャタテムシやシラミの研究を特にプッシュすることはありませんが,もちろんそれらをテーマに選んでいただいてもかまいません(ファーストオーサーを横取りしたりもしません).
近年,系統学や分類学における分子データの利用がごくごく一般的になって来ています.ぼく自身も分子系統の手法は積極的に利用すべきだと考えています.しかし,ぼくのもとで新たなテーマに取り組む場合には,まずは形態に基づく解析に取り組んでもらいたいと考えています.理由の一つは,形態の観察法の習得は,分子の解析法の習得よりはるかに困難なためです.分子系統解析の手法はほぼルーチンワーク化しており,いざ必要となってから覚えても遅いということはありませんが,逆の場合には困ったことになりかねません.より重要な理由は,分子系統で分かるのは進化の「枝分かれのパターン」で,その系統樹を利用してどのような面白い進化的議論を組み立てるかと言うことこそが,研究の醍醐味だと思うからです.現在,1Kite と言った昆虫の系統をゲノムレベルで解きほぐそうとするプロジェクトが進んでおり,昆虫の高次分類群間の分岐順序は,そう遠くない将来,かなりの解像度で解明されるでしょう.僕が目指したいのは,そうして推定された「樹形」に肉付けし,昆虫の系統進化,形態進化,機能形態を理解することです.また,昆虫の形態には,これまで系統推定に利用されていない構造がたくさんあり,それらはゲノム情報から推定された系統樹をテストする上でも重要な役割を果たします.
ちなみに,ここで言っている「形態の研究」というのは,単なる同定形質の探索や表層的な比較による形質のコーディングとは全く質の異なるものです.厳密な比較形態に基づく相同性の推定を行い,さらには形態の持つ機能を理解してこそ,系統推定にあたっての形態の価値は高まり,生き物の系統進化像が初めて理解出来ると考えています.
「ほら,やっぱり!君は観察していないんだ.だが見ることは見ている.その違いが,まさに僕の言いたいことなんだ.」(シャーロック・ホームズの冒険 ボヘミア王家の醜聞 より)
「Studied in depth, with full attention to functional significance, they can be of the greatest systematic value」(Wootton, 1996: Functional wing morphology in Hemiptera systematics)
「観察しろというのは… 見るんじゃあなくて 観ることだ… 聞くんじゃあなく 聴くことだ」(ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない より)
当教室を希望される学部2年生へ:2年後期の終わりには教室への分属が決まります.それ以前からでも,教室のゼミ等への参加は可能です(昆虫体系を希望して,振り落とされる可能性はほとんどありません).生き物の研究では,一年に一回しかデータを取るチャンスがない場合がほとんどです.早くテーマを決めることができれば,それだけデータを取るチャンスも増えます.分属が決まればすぐに机が割り当てられますので,空いた時間はできるだけ教室で過ごし,先輩などと話をすることを勧めます.
学生との論文執筆にあたっての基本共著ポリシー(これ以外のパターンでは,議論の上決定)
・学生自身でテーマを決めて論文を書いた(執筆指導は受けた)→吉澤を著者に入れる必要なし
・吉澤がテーマ選定に深く関わり,学生が投稿原稿を書いた(執筆指導は受けた)→学生自身が筆頭責任著者となり,吉澤はヒラのラスト
・吉澤がテーマ選定に深く関わり,学生が卒論・修論等として論文を書いたが,投稿原稿は吉澤が書いた→学生が筆頭で,ラストの吉澤が責任著者
・吉澤がテーマ選定に深く関わり,学生がそのテーマで卒論・修論等を書いたが,投稿にあたっては吉澤が追加のデータ取り等で多くの時間を割いた→吉澤が筆頭で,学生はセカンド